小学校での体育授業中の組体操の練習中に発生した事故につき、指導担当教諭らの安全配慮義務違反が認められた事例

事案の概要

被告が設置している区立A小学校において,運動会の種目として組体操を行うこととなり,6年生の体育の授業中に5人一組で行う技の練習をしていたところ,被害者のグループがバランスを崩し,二人の児童の上に乗っていた被害者が転落して,左側上顎中切歯の完全脱臼等の傷害を負ったことから,指導にあたっていた教諭らに債務不履行(安全配慮義務違反)があったとして,被告に対し損害賠償を求めた事案

判決の概要

組体操の危険性

本件の組体操(5人技)は,土台役の2名の児童の上にもう一人の児童が立ち,土台の左右から倒立してくる2名の児童の足を持って支えることによって完成する技である。同技は,指導教諭も教則本等で見たことがなく,また,広く一般に小学生の組体操で採用され,安全性が承認されたり,留意点が認識されているものと認める証拠はない。
本件5人技は,土台の上に立つ児童が,先に倒立してくる児童の足をつかみ,さらにその児童の倒立を維持させたまま,反対方向から倒立してくる児童の足をつかむことを要求される点及び児童2名で構成された土台の上に立った状態でこれを行うことを要求され,3人補助倒立など地面の上で行う技とは異なって,足下の安定性が確保されているとはいえない点において,相当な困難を伴う。
本件5人技は,中央の児童に不安定な土台で自らのバランスを維持しつつ,左右から倒立してくる二人の児童の足を支えるという作業を求める点で,とりわけ中央の児童に困難な作業が集中するものであり,児童の役割分担という点では相当に異質なものであり,それらと比べて少なくとも中央の児童にとっては難易度が高いものである。したがって本件5人技において,技を完成させるまでの過程において,倒立の態様によっては,中央の児童が倒立役の児童の足をつかみ損なうなどしてバランスを崩し,土台の上から倒立役の児童とともに転落する危険性があったと認めるのが相当である。

担当教諭の安全配慮義務違反

このように,相当程度の危険性が認められる本件5人技を組体操のプログラムの一つとして採用するにあたっては,担当教諭らは,中央の児童がバランスを維持することができるように,倒立等の仕方について,各役の児童に対し適切な指示を与え,それぞれの児童がその役割を指示どおりに行えるようになるまで補助役の児童を付けるなどしながら段階的な練習を行うなど,児童らの安全を確保しつつ同技の完成度を高めていけるよう配慮すべき義務を負っていた。
しかしながら教諭は,本件5人技が採用されてから本件事故に至るまで,原告ら児童に本件5人技を行わせるにあたり,より倒立の上手な子が先に倒立するようにといった倒立する順番についての指示を与えてはいるものの,土台との関係で倒立をする児童が手を付くべき位置についての具体的な指示を与えていたとは認められない。本件事故時においては,児童Bが手を付く位置が土台役の児童から離れていたため,児童Bの足が原告の手が届く位置に来た時には,児童Bの体は垂直よりも原告方向に傾いた状態になっていて,これを無理につかもうとした原告がバランスを失う原因となっていたと認められるところ,上記のように倒立役の児童に適切な指示を与えていればこのような事態を防止することは可能であったと認めるのが相当である。
教諭らは,原告を含めた児童らが安全に同技の完成度を高めることができるよう,児童らの習熟度が進んでいない段階では補助を付さない一斉練習を行うべきではなかったにもかかわらず,段階的な練習によって各グループの完成度を確認することもせずに,本件5人技の採用が決定された後,わずか2日間の練習の後,一斉全体練習を行った。
 以上によれば,本件の転落事故については,指導教諭らに上記の各安全配慮義務違反を認めることができ,被告は原告に対して損害賠償義務を負う。

ポイント

教員は、在学中の学生に対し、安全配慮義務を負っていますが、その内容ははっきり定まったものではなく、問題となった事例に即して具体的に判断されます。

上記事例においては、組体操のプログラムに組み込まれた技の危険性が高いことから、学生達が与えられた役割を行えるようになるまで段階的に練習を行うようにする配慮をすべき義務が認定され、教諭らが段階的な練習を行わなかったことなどを理由に安全配慮義務違反が認められました。

Follow me!

突然のお怪我に今後どうすればいいかわからない、学校との交渉がうまくいかない、学校や加害者からの適切な賠償額がいくらになるのかを知りたいなど、お困りのことがあればお気軽にご相談ください。弁護士への相談が遅れて困ることがあっても、早過ぎて困ることはありません。ご相談しやすいようにするため、初回の法律相談料は30分無料としております。